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長い冬 

「そのときどきのローラ」

 人の一生は選択の連続であり、そして、その選択から自分という人間が見えてくるような気がする。

 母から勧められた『赤毛のアン』であり、愛着はあるけれど、どちらかというとやはり自分は『大草原のローラ』を選ぶ。

 中学生のとき、国語のテストの最後の設問で自分の好きな本を短く紹介しなさいというのがあった。自分は『大草原のローラ』と、友達はパール・バックの『大地』と解答し、採点は友達の方がよかったようで、どちらも読んでいた自分は、どうせだったら点数のよい『大地』をあげておけばよかったと悔しかったのを覚えている。そのときに、ローラは、児童文学で子供向けの作品、一方『大地』は、大人向けで賞を取っているから先生の評価が高いのだと思い込んでしまった。

 だが、そうではない。

 ローラのシリーズの魅力は、尽きない。

 まず、自分は福音館のシリーズを読み、次に間をおいて岩波少年文庫のシリーズを手に取ることになった。

 最初に自分を魅了したのは、開拓時代の魅力的なハンドメイドの暮らしを詳細に描いた部分であり、その温かで揺るぎのない家族の絆、隣人愛を描いた部分だった。ぶたのしっぽの丸焼きや、雪の上にたらして作るメイプルキャンディなどにどんなに憧れたものか。父さんさえいれば、大丈夫という父親に対する絶対の信頼がどんなに頼もしく思えたことか。
 それから、メアリーとは対照的な強さと機知と野性を合わせ持つ主人公ローラがなんといっても魅力的だ。ネリーに対する仕返しは痛快であったし、わらつかあそびの言い訳には、父さんだって笑って許してしまったほどだ。そして、自然の厳しさを身をもって知りながら、屈服しないローラには、感嘆を覚える。『プラムクリークの土手で』の巻で、ローラは、好奇心からクリークの水の中に危うく引きずり込まれそうになる。しかし、それでも、クリークは、ローラに悲鳴をあげさせることも泣かせることもできなかったのだから。
福音館のシリーズでは、主にそのローラの生活と人間の魅力で読み進めていたように思う。

 続編があることを知ったのは、大学入学後の学校の図書館で、それが岩波文庫のシリーズだった。このとき、『長い冬』を手に取らなければもしかしたらローラとのこんな長い付き合いはなかったかもしれない。
 8ヶ月も続いた長い冬の厳しい生活の話は、それまでとはうってかわって暗い。それも当然で厳しい寒さとともに常に飢餓と隣り合わせの状態が続くのだから。幾度もの危機を家族の思いやりと工夫で潜り抜けながらも、ローラでさえ弱音を口にする。
 昼夜も分からず、起きたとて希望を持てない毎日が続くことに、「なぜ起きなければならないの?」と不満を漏らすところが印象的だった。それはつまり、「なぜ生きなければならないの?」という問いかけとほぼ同じであったから。その一節がなぜそんなにも、当時の自分の心に響いたのかは、今は、もうわからないけれど、100年も昔の開拓時代の少女の心に現代に生きる自分の心がシンクロしたのは確かだ。
 そして、厳しい状況であるからこそ浮き上がってくる人間の本性、哲学、思想というものがある。
 飢餓の危機に瀕する町の人たちのために、アルマンゾとキャップ・ガーランドは不確かな情報をもとに小麦を求める旅に出る。奇跡的に二人は小麦を持ち帰ることに成功するのだが、二人が持ち帰った小麦で商人のロフタスが法外な儲けを手に入れようとしたことから騒動は起きる。その騒動が収まるまでの過程に自分は深く感動した。本文中、何度となく繰り返される「自由と独立」の言葉がここでも使われる。
 この「自由と独立」の精神が『この楽しき日々』で、ローラが結婚の誓いに「服従」という言葉を言わなかったことにも繫がっていくのだろう。

 訳者の鈴木哲子さんは、後書きで吉村俊子さんの感想を引用して、

 「少年文庫」に入る本にこんな大人の世界の感想が出て来る、-この こと自身に、ローラ・インガルス・ワイルダーの作品の素晴らしい特 質があると思います。

と言っている。

 その通りであると思う。このシリーズを通してわたしたちは、一人の女性の成長と彼女を育てた風土を読み取ることができる。それは、厳しい現実に根ざし、しかし、単なる現実に踏みとどまることがない。次の一歩を踏み出す勇気を与えてくれるものなのだ。
 これからも、自分はローラをそのときどきに読み返すだろう。そして、ローラは、そのときどきにそんな自分に答えてくれるに違いない。作品の中のローラに、そして、作品の外のローラに、自分の興味は尽きることがない。

長い冬―ローラ物語〈1〉 (岩波少年文庫)長い冬―ローラ物語〈1〉 (岩波少年文庫)
(2000/06/16)
ローラ・インガルス・ワイルダー

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